「吃音になるのは、親の育て方のせいではない」は本当か?
「診断起因説」は否定されている
今回は吃音を持つ子供に、親はどう接するべきか?について書いてみます。
幼児の吃音については、最新のガイドラインが出ています。
http://kitsuon-kenkyu.umin.jp/index.html
これが一番科学的知見に基づいた情報と言えるでしょう。
勿論合理的配慮も必要です。
私は、いろんなSNSで、吃音の投稿を見ていますが、どんなサイトや投稿を見ても
吃音は「親の育て方のせいではない」というのが、今の常識です。
これは、ウェンデル・ジョンソンが主張した「診断起因説」が、一時期広まってしまったため、その間違った情報に対して
正しい情報を発信するものだと思います。
「診断起因説」とは
「子どもの非流暢性な発話を,親が『吃音』と気づき,本人に意識させることにより,吃音が始まる(環境が 100%)」というものであ る. 「吃音は子どもの口から始まらず,親の耳から始まる」とも言われ,吃音が始まったのは,親のせいである,という親が原因論という話がここ から生じているのである.」
(発達障害(吃音)のある医師 菊池 良和)
今では、この説は明確に科学的に否定されているにも関わらず、未だに信じている人がいるようです。
だからこそ、「親の育て方のせいではない」と言われるのでしょう。
もちろん、親が自分を責める必要はありません。
ただ、私が成人のカウンセリングをしていると「親に言葉の干渉をされて嫌だった」という人はかなり多いです。
「もっとちゃんとしゃべりなさい。」「そんな話し方ではだめ。」など、、。
中には、その時の母親の口の形を覚えている人もいるくらいです。
トラウマですね。
かといって、そういう育て方をしていない家庭でも吃音になる子供はいます。
正しい情報が広まれば、こういう育て方をする親も減ってくるでしょう
発吃と進展は違う
しかし、私は「親の育て方のせいではない」と言い切ってしまうのは、少し抵抗があります。
親の育て方には、いろんな側面があり、一概に良いとか悪いとか言えないと思うからです。
私は、これは「発吃」と「進展」に分けて捉える必要があると思います。
私は、発吃(吃音になること)は、遺伝や体質によるものですが、
進展(定着したり悪化すること)は、心理的要因が大きいため、親の存在は影響すると思います。
これには、幼児の吃音と成人の吃音の違いを理解する必要があるため。
あまり知られていない、一次吃音と二次吃音の違いをご覧ください。
この場合、私は「育て方」というよりは「親の心の在り方」だと思います。
例えば、親が「この子は吃音で、心配で仕方がない。治さなければ、将来が真っ暗だ」と、強く悲観的に思ったとしましょう。
その心を、子供は感じ取ります。親は、気を付けていても、無意識に表情や言葉に表れ、子供はそれを敏感に感じ取り、
同じように悲観的に感じるようになるでしょう。
私が、カウンセリングしてきた中で、症状の思いかたは、親がこのタイプが多いです。
また、以前親子で見学に来た方と面接をして「むしろ親のカウンセリングが必要」だと思うことも多かったです。
勿論、完璧な親はいないので、悲観的になるのは、ある程度は仕方のないことです。
対して、吃音であってもなくても、「あなたは大丈夫」と親が思っていれば、子供の自己肯定感は上がります。
自己肯定感が高ければ、吃音であっても、悩みは比較的軽く、回避行動もしないため、症状も改善しやすくなります。
バイデン大統領に対する母親の影響
私は、母親の存在が大きかったのかなと思います。
毎日、学生のバイデン氏が家を出るときに
「ジョーイ、吃音で自分を決めつけないで」
「自分が何者であるかを思い出しなさい。」
「あなたならできるわ」
と声をかけたそうです。
母親の強い愛情と信念がそうさせたのかもしれませんね。
特に、「吃音で自分を決めつけない。」「自分は何者か」
という言葉は、吃音で自分を評価しない、自分には価値があると思えるようになります。
きっと、母親も心配で仕方なかったはずです。相当な葛藤があったでしょう。
でも、息子を信じる強さがあったのではないでしょうか。
反対に、私は、常に親から「勉強が出来ないと、将来生活できない。」
「もっと勉強しなさい。」「あの人に負けてはだめ」と言われてきました。
これは、○○じゃないとあなとを認めませんよ。というメッセージ(暗示)を子供に与えます。
逆に、一番うれしかった言葉は「五体満足で生まれてきてよかった」です。
これは、評価でなく、存在の肯定ですね。これが自己肯定感です。
吃音者にはこれは必要なんです。
吃音と向きい合うのは、子供自身
私が人前でどもるのを見た時、親は悲しくつらかったと思います。
自分に出来ることがあれば、何でもしてあげたいと思うでしょう。
でも、どんなにつらくても、子供の人生は子どもの人生だと思うのです。
サポートしなくていいと言っているのではありません。
家庭の雰囲気、吃音を自由に話せる環境、吃音で評価しない子育て、学校への説明
すべてやるべきです。
でも最後に吃音をどう向き合うかはその子供次第だと思います。
親は変わってあげられないのです。
そういう意味では、「子供を通して親が自分の人生をどう生きていくか?」が大切な問題だと感じます。
93歳の父は、九州の老人ホームで一人暮らし。
年に2回ほど会いに行きますが、今でも父の前が一番どもります。
でも、父はずっと笑って待ってくれています。
心配している様子はないですね。
きっと、私自身がもう吃音を気にしていないのを感じ取っているのだろうと思います。
吃音であってもなくても、同じようにあなたは尊い存在。
それをお子さんにぜひ伝えてあげて欲しいと思います。
まとめ
「吃音になるのは、親の育て方のせいではない」は、「診断起因説」を強く否定するためのもの。それ自体は正しい。
しかし、吃音の発吃と進展に分けて考える必要があり、発吃は遺伝や体質だが、進展は環境的要因が大きく、親も関係している。
「育て方」の問題ではなく、親自身の、吃音に対す正しい知識と、「親の自己肯定感が子供の心理に影響する。」です。
親が、吃音に対する正しい知識を身に着け、実践することも大事ですが、親自身の心理(心の在り方)が大事だと思います。