吃音の改善には「言語訓練」と「メンタル」のどちらが大切?
吃音の治療法や改善法には、大きく分けて「直接法」と「間接法」がある
吃音を改善しようと思うにあたって、言語訓練をするのが良いのか?メンタルが大事だと思うのか?また、両方大事なのか?は気になるところですね。
(これは成人の吃音に関しての話になります。)
私自身はカウンセリングで大きく改善したので、間接法ということになりますが、まわりを見渡すと、カウンセリングで改善した人は、どうも少ないように思います。
ただ、どうしても、カウンセリングで改善した経験があるので、つい間接法の肩を持ちたくなりますが(笑)なるべく客観的に書いてみます。
直接法とは
直接法とは、主に直接言語訓練をすることによって、症状が出ないように、もしくは出にくくする方法です。
代表的な直接法は、流暢性形成法です。
流暢性形成法は、「吃音は学習された結果なので再学習で症状を取り除こう」という考え方です。吃音症状を出さない話し方を練習するために、発話をコントロールする話し方を訓練します。具体例には、抑揚をなくした話し方や、ゆっくりとした話し方から徐々に自然な発話へ戻していきます。
吃音緩和法は、吃音を取り去ろうということにそもそも無理がある、そこに囚われていることが吃音を悪化させるという考えから、吃音の除去ではなく、どもりながらも言いたいことを言えることを優先していく方法です。言葉が出ない苦しい吃音を、軽い吃音にします。
流暢性形成法の専門家と吃音緩和法の専門家で長い間論争があったそうです。
しかし、今は、総合的アプローチと言って、流暢性形成法や吃音緩和法を、年齢やニーズを汲みながらアレンジして使われています。
間接法とは
間接法は、話し方のコントロールは行わず、間接的に正常な発話を促していく訓練のことを言います。
代表的な間接法は、系統的脱感作法。
不安や恐怖を生じる状況や物に対して、脱感作というリラクゼーション(筋弛緩)を用いて、リラックスした状態で、段階的に不安を暴露して緩和させる方法です。
自律訓練法は、自己暗示(催眠に近い)によって、心身をリラックスさせ気持ちの安定を図ります。
メンタルリハーサル法は、話し方の工夫をするのではなく、もともと自然に話せていた年齢からスタートして、様々な場面で自然に話すことを現在に向かって再学習します。行動の回避をしない。(苦手な場面でも、話すことから逃げない))夜寝る前のイメージトレーニングなどを行います。
心理カウンセリングは、基本的には吃音の症状を減らすよりも、吃音による二次的な問題「社交不安症」への対処。職場や家庭関係、人間関係などへの対応。悩みとともに生きていける心の器を育てること。最近は認知行動療法。認知のひずみを修正する。行動の回避をしないようにすることが行われています。
また、治療とは違いますが、仕事に支障をきたすほどである場合、業務の進め方やコミュニケーションの方法を変える、仕事を変えるなども間接法と言えるかもしれません。
私は、どちらかと言うと、間接法に身を置く臨床家なので、正直、他の間接法には厳しい意見を持っています。
まず、系統的脱感作法は効果が薄いと思います。身体のどこに力が入っているか?を見つけるこころまでは良いのですが、意識して力を抜くのは難しです。
人間の複雑な身体の仕組みや、発話機能の中で、意図的にどこかの力を抜くのは、相当至難の業でしょう。
自律訓練法は、ある程度の効果はありますが、苦手な場面になるとやはり元に戻ってしまうと思います。
メンタルリハーサル法は、確立された方法で研究もされていますが、私のところに来るかたは、メンタルリハーサル法を途中で断念したかたが多いです。
どちらが良いのか?
では、どちらが良いのか?ですが、それぞれ利点と欠点があります。
直接法の利点は、分かりやすいことだと思います。どもって話す→どもらないで話す練習なので、非常にシンプルです。
また、練習すれば、「その場」では効果が分かりやすいです。
ただ、欠点は、「その場」では練習の成果が出ても、苦手な場面になると、元に戻ってしますことです。
つまり、吃音を単なる「言葉の問題」として、心理的な要素を考えていないので、効果が限定的です。
直接法で改善する人は、元々不安に呑み込まれにくい人や、苦手な場面でも冷静に練習したことを実行できるタイプの人だと思います。
私は、直接法の訓練は、武道でいう「型」のようだと思っています。
吃音は、長い習慣によって、悪い「癖」がついてしまったようなものなので、正しい「型」を繰り返しトレーニングすることで、脳に正しい発話運動を覚えさせることができると思っています。ただし、心理的要因を全く考えずに練習すると、相当な努力と時間が必要になるでしょう。
間接法の利点は、一くくりに言えませんが、カウンセリングで言えば、悩みが減ることだと思います。
吃音の悩みは、吃音自体で悩んでいるのではなく、吃音からくる人間関係で悩んでいるのです。
私は、成人の吃音はほぼ心理的なものなので、カウンセリングが一番効果的だと思います。
欠点は、時間がかかることです。メンタルリハーサル法で3年。カウンセリングでは、社交不安を減らすのは、さほど時間はかかりませんが、
吃音症状を減らすのは、1~3年かかります。
ただし、長い人生の中で、その3年をどうとらえるか?の問題とも思います。
また、直接法のトレーニングとどちらか早いか?の比較になりますね。
物に例えると、目の前に大きな壁があって、そこを乗り越えると吃音のない世界が待っているとしましょう。
「直接法」は、その壁をひたすら上っていくアプローチになるかと思います。
では「間接法」は、壁を登らずに、横道を見つけて向こう側に行くアプローチです。
両方を行うのも良い
私は、カウンセリングで改善したのと、以前のカウンセリングで「言語訓練は推奨しない」方針があったので、私もそう思っていましたが、
ここ一年くらいで考え方を変えました。
今は、直接法も効果はあると思っています。ただし(ここが大切なのですが)心理的要因を無視して、言語訓練だけで改善するのは反対です。
言語訓練でアクセルを踏み、心理的要因がブレーキをかけるため、前に進めない可能性があるからです。
近年、ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)と言語訓練を同時に行うと、効果が高いという論文が出ました。
それについては、こちらをご覧ください。
ACTと言語訓練を組み合わせる可能性について。
また、多面的・包括的アプローチと言って、治療の範囲を広げ、吃音に関する要因を一つ一つ見ていこう、という考え方もあります。言語の専門家以外と共同で行い、保護者にも積極的に参加してもらいます。吃音症状、感情、言語力、認知力、運動能力、家庭、学校、習い事、価値観やライフスタイルなども含まれます。
CALMS(カルムズ)モデルも、吃音を多面的に捉えようとするモデルです。吃音を5つの要素①心理・感情②言語面③口腔運動能力④社会性・社交性⑤知識・認知面
で捉え、吃音だけに注目するのではなく、様々な側面を包括してアプローチする方法は、現在の主流の考え方になりつつあります。
どちらにもとらわれない見方もある
また、これは私独自の考え方ですが、直接法や間接法というカテゴリーに囚われない方法もあると思っています。
それは、マインドフルネスの視点から考えることです。
心理的には、マインドフルネスは「今ここ」に集中して、不安とうまく付き合う方法を教えてくれます。
しかし、マインドフルネスには「自動操縦状態からの脱出」という側面もあります。
「自動操縦」とは、意識していない自動化された運動や行動のことです。吃音も自動化された悪い癖のようなものです。
吃音も「今ここ」に集中して、自動化された発話運動を、ゆっくりと意識して行うことにより、正しい発話ができるようになります。
実は、このプロセスは「流暢性形成法」に似ています。発話速度を落とすと、吃音は減るということは、様々な研究で証明されています。
ただ、表面的にゆっくりと発話するのと、マインドフルに過程を味わいながら発話するのでは、かなり意味が違います。
私は、このマインドフルに発話することをカウンセリングに取り入れています。
結論
結論としては、「間接法」だけか、「間接法」と「直接法」のミックスが良くて、「直接法」のみはお薦めしません。
理由は、さきほど書いたように、心理的要因を無視して発話訓練だけで改善しようとするのには、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるようなものだと思うからです。
「直接法」だけでスムーズに改善できる人は、多分心理的には比較的問題が浅い人ではないかと思います。
専門家の力を借りずに、自力で改善したい人は、まずは心理的なケア(認知行動療法などの本を読んで、セルフケアする)した上で、ゆっくりと発話する練習や、メトロノームに合わせて発話する練習をしても良いかと思います。
但し、上手くいかないときや、不安が強くなったときは、専門家に相談してほしいと思います。
いつも興味深く拝読させて頂いております。
私は直接法と間接法(生活の発見会での森田療法ですが)を別々に受けました。どちらも良い面はありますが、森田では症状をイジる事はマイナス行為とされていました。その為もあり20年位在籍した発見会を辞め、言友会に入会しました。
仕事は現役(計40年位の公務員)を引退し、今は契約職員で働き6年目になります。日常生活で吃音で困る事は少ないですが、自他共に吃音を改善したいです。
地域の吃音コミュニティの世話役を再度する環境にあります。
こちらのブログを時間のある限り読ませて頂いて勉強したいと思いますので、宜しくお願い致します。
綱川俊彦さま。ブログをお読みいただきありがとうございます。
森田療法を実践されていたのですね。私は主にACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)を使っていますが、森田療法に似ていると思っています。
ただ、森田療法はちょっと厳しい感じはしますね。(笑)ACTは様々なエクササイズがありますので、若干なじみやすい気がします。
吃音は単純に言葉の問題ではなく、人間の心の奥深いところの問題定義をされているように感じています。
反応を頂くと、ブログを書くエネルギーになるので、またコメントしていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。