カウンセリングの基本の基

カール・ロジャーズの中核三原則

今日は、吃音からちょっと離れて、心理カウンセリングについて書いてみます。
カウンセリングの基本と言えば、「傾聴」ですが、正確には「来談者中心療法」と言います。
提唱したのは、カウンセリングの基礎を築いた、カール・ロジャーズです。
カール・ロジャーズは、話しを聴く側(カウンセラー)に必要な要素は、三つあると定義しました。
それが、中核三原則です。この中のどれが欠けてもカウンセリングは上手くいかないということですね。

①共感的理解

相手の立場になって、気持ちに寄り添いながら、相手を理解しようとすること。

②無条件の肯定的配慮

相手の話を評価や好き嫌いで判断しないで聴く。どのような話でも、受け入れる。

③自己一致

聴き手(カウンセラー)が、純粋に自分のありのままの感情を体験し、受容していること。自分の気持ちに嘘をついていないこと。

日本では、誤解されていることが多い

ただ、日本では傾聴が誤解されていることが多い印象です。
何故かというと、元々日本人は、自己主張するよりは、受容や共感の関係がなじみやすく、傾聴カウンセリングは日本の風土に合っていて、多く広まりました。
だから、今でも日本では、カウンセリング=傾聴、というイメージがあります。
しかしその場合、「話しを優しく聴くだけ」になってしまいがちです。

また、カウンセラーの側からすると「カウンセラーは、受容と共感に努め、自分の考えを言ってはいけない」という意見も多くあります。
実際、日本の傾聴カウンセリングのお手本のビデオを見たことがありますが、ほどんど「そうですか」「あなたは○○だと思ったんですね」しか言わないカウンセリングでした。
私は、このカウンセリングに疑問を持っていたので、様々な現役のプロのカウンセラーに訊いたのですが、「そのカウンセリングでは、問題は解決しないか、ものすごく時間がかかる」
という人が多かったです。現場ではあまり役に立たないということですね。
実際、欧米の来談者中心療法のカウンセラーは、結構自分の意見も言うし、しゃべっています。カール・ロジャーズ然りです。

一番大事なのは、自己一致

では、何が大事かと言うと、「自己一致」です。これはカール・ロジャーズも言っています。
自己一致」出来ていないカウンセラーが、いくら受容や共感に努めても、偽物になってしまうと言うことです。

ここで、私のカウンセラーの先生の体験談を二つご紹介しましょう。

①ある若い女性のクライアントが来ました。全身真っ黒の服を着ています。カウンセリング中も、下を向いてずっと泣いていて、カウンセラーが「どうしたの?」
と尋ねても、返事をしません。カウンセラーは「変なクライアントだな」と感じていました。
数回の面接の後、そのクライアントが突然、顔を上げて「先生、私は変ですか?」と、訊いてきました。
カウンセラーは「ううん?全然変ではないよ」と、答えました。
そのクライアントは、次の週から、来なくなりました。

いかがでしょうか。これは失敗談ですね。カウンセラーは「変だな」と思っていたのに「変じゃない」と嘘をついた。「自己一致」してなかった訳です。
カウンセラーの嘘を、クライアントは見破ります。
この場合、言葉を選びながら、正直に話すべきだったのです。

②ある大学の浪人生です。その人は、京都大学に入りたくて浪人していました。主訴は「友達が出来ない」ことだったのですが、その人の考えは
「京都大学と東京大学以外の友達は作らない」でした。
そして、傾聴のカウンセリングを色々と受けて問題が解決しないので、私の先生のカウンセリングを受けに来たわけです。
先生のカウンセリングは、一言「それはあなたの性格が悪いからだよ」と言ったそうです。
言葉はキツイですが、これは「自己一致」していますね。カウンセラーが自分に正直だから、クライアントも信用して、カウンセリングを続けて
問題は解決したそうです。これは、成功例です。(実際は、もっと言葉を選んでいたと思いますが、、)

傾聴の本質は、クライアントが自分で気づくこと

「自己一致」が軽視されて、誤解を招いている日本の傾聴カウンセリングですが、本来の傾聴の本質がどこにあるのかと言うと、「自分の内なる気づき」です。
クライアントは、自己一致したカウンセラーが、受容と共感に努めて話しを聴いてくれたときに、初めて自分を深く掘り下げて、「内なる声」を聴くことができるのです。
カウンセラーが「これはこうだよ」と、教えてしまうと、内なる気づきにならなくなってしまうのですね。
自分が評価されない場所で、自由に話すうちに、自分の悩みや考えが整理されて、本当の自分の気持ちに気づいていくのです。

ただ、実際にカウンセリングしてみると、なかなかうまくいきません。
それは、なぜかというと、気づく力の強いクライアントと、弱いクライアントがいるからです。
実際は、気づく力の強いかたは、カウンセリングを受けなくても、ちょっとしたきっかけで気づいて解決していくし、弱いかたは、傾聴だけだとすごく時間がかかります。
カウンセリングの本場であるアメリカでは、短期間での問題解決が求められるため、今や傾聴カウンセリングはほとんど行われていません。
私が、ACTを使っているのも、同じ理由です。

ロジャーズは誤解されていた

ロジャーズ以前の心理療法は、実験心理学や精神分析で、いわゆる「指示的」なカウンセリングでした。
ロジャーズの提唱した「来談者中心療法」は、「非指示的」なカウンセリングです。
それは、人間の自由意思や主体性を尊重するものだったのですが、まわりから「非指示的」を強調されるのは嫌っていたそうです。
実際、カウンセラーの態度、技法には六つの必要十分条件があり、その五番目は
カウンセラーがクライアントの内部的照合枠を共感的に理解する経験をしていて、この経験をクライアントに伝達するように努めている」とあります。
カウンセラーは感じたことをクライアントに伝える努力をすべきなのです。





カウンセリングの基本の基” に対して2件のコメントがあります。

  1. 梅津ひかり より:

    7ヶ月ぶりに投稿を拝見して、とても共感させていただきました。いつもありがとうございます!

    1. stardust より:

      こちらこそありがとうございます。

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