撮るマインドフルネス
写真を撮ることは、マインドフルネス
私は、スマホを手にしてから、写真をよく撮るようになりました。
決してうまくはありません。家族で写真を撮るときなどは「あなたは撮らないで」とよく言われます。(笑)
ただ、絵を描くので、普段からものを観るくせがあるのと、父が写真が趣味で、若いころはプロを目指していたようなので、
DNAのようなものはあるのかもしれません。子供のころは、家に暗室があり、現像をしていました。
写真とは別に、カウンセリングをするようになって、マインドフルネスに出会い、色々と勉強するうちに
「写真を撮ることは、マインドフルネスになるのではないか?」と思うようになり。「撮るマインドフルネス」と名付けてクライアントさんにも、勧めるようになりました。私のセミナーでも、ご紹介していますし、Facebookでは「撮るマインドフルネス」のグループを作っています。
吃音者は「自己注目」が強いと言われています。自分に注意が向き過ぎていて、吃音にも悪影響があるのですね。
だから「外部注目」とか「他者注目」と言って、周りに注意を向けることが大切だと言われています。
マインドフルネスでは、ウッパサーナ瞑想(観察瞑想)と言って、周りを広く観察する瞑想がこれに当たります。
(これに対して、サマタ瞑想は一点に集中する瞑想です。)
写真を撮ること、また、写真を撮るために、周りを広く観察することは、マインドフルネスになるのです。
代表的なマインドフルネスのエクササイズは「呼吸瞑想」ですが、これは正直言って、それほど楽しい訳ではないので、続けるのが難しく、止めてしまう人も多いと思います。でも、スマホはいつでも持っているし、気が向いたときに楽しみながら出来るので、お薦めのマインドフルネスです。
すでに本が出てた。
1年くらい前に、X(Twitter)を見ていたら、「撮るマインドフルネス」の本が出ているのに気が付きました。
「え?私が最初じゃなかったの?」とびっくりして、早速、本を購入して読みました。
心理学者で医学博士の、石原眞澄(いしはらますみ)さんが書いた本です。
実は、写真を撮ることは、マインドフルネスの効果を得る方法として、多くの心理学の研究で証明されているのだそうです。
では、本の内容に触れながら、ご説明しましょう。
写真は「今ここ」そのもの。
私たちが「シャッターを切りたい」」と思う時は、「今この瞬間の、この光景を残しておきたい」と思ったときですよね。
マインドフルネスは「今ここ」を実感するのが大切で、それは私たちの不安や悩みのほとんどは、過去の後悔と未来の予測から来ているからです。
つまり「今ここ」に意識があるときは、不安は減るということです。
写真を撮るときは、私たちは「過去」や「未来」から解き放たれて、「今ここ」に集中することができるのです。
ペンシルベニア大学病院アブラハムがんセンターで2010年から実施されている「ウォークアバウト」というプログラムでは、病院の近くで感じたままで写真を撮り、その写真を使ってコラージュ制作をするのですが、このプログラムを8週間実施したところ、うつ病、感情的幸福感、ストレス対処法への理解度などにおいて、改善が報告されています。
写真は、自分の世界をありのままに写している。
写真は、私たちの世界の見かた、そのものです。
フランスの精神科医、精神分析家のティスロンは、「すべての写真は、カメラのレンズの前にある、具体的な事物の証明であると同時に、それを撮った人の、心情や感情の表現でもある」と言いました。つまり、客観的な記録であると共に、主観的にシャッターを切っているということです。
これが、写真の面白いところです。
確かに、同じものを撮っても、撮る人によって全く違った写真になったりしますね。自分が撮った写真は、自分にしか撮れないオリジナルな1枚です。
だから、自分を知る有力なツールとなるのです。
ただ、大事なのは、その写真を評価しないこと。厳しく見ないことが大切です。「自分を知りたい」という気持ちが重要です。
ありのままとは、感情、思考、行動が一致している状態。
私たちは、つい「だれかが望む自分」「だれかの期待に応えようとする自分」を演じているところがありませんか?(親の期待に応えたいとか)
人は、本当の自分の気持ちと違った行動をとると、心がモヤモヤして、メンタルも悪化します。
反対に、自分の「価値」に添った行動をしていると、心は安定します。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では、「価値」と「価値に添った行動」を重視します。
また、カールロジャーズは、「自己一致」と言い、それは感情、思考、行動が統一された状態を表し、幸福感が高まることが、多くの研究で報告されています。
写真は、私たちが「この瞬間を残したい!」と望みシャッターを切る行為です。つまり「自己一致」している状態だと言えます。
写真を撮ることを通して、自分が望むように行動していくことが出来るようになります。
今、自分を見失っていても、「自分がどうなりたいのか?」「何をしたいのか?」のヒントが、撮った写真の中にあるのです。
好きなものを、好きなように撮る
自分の興味や関心にもとづいて、写真を撮ることは、心身が健康になり、主観的幸福感が高まります。
これは、ポジティブ心理学の「自己決定理論」で裏付けられています。
それは、アメリカの心理学者デシとライアンが提唱する「動機づけ理論」です。
人のモチベーションには、大きく分けて二つあり、一つは親、教師、上司などの指示や、金銭的報酬など、行動の理由が自分の外側にある「外発的動機づけ」(非自己決定)。
二つめは、興味関心や自分の価値観など自分の内側にもとづいて自律的に行動する「内発的動機づけ」(自己決定)です。
自分の想いをもとに、写真を撮ることは、自分の興味関心にもとづいた、「内発的動機づけ」(自己決定)と言えるでしょう。
筆者は、この仮説を元に、脳のMRI研究を行ったところ、右島皮質の脳活動が活発になることが分かったそうです。
これは、マインドフルネスで活性化する領域と同じだそうです。
写真は、メタ認知(自分のモニタリング)効果がある
自分の気持ちに対して、「そのように感じたんだね」と客観的に受け止める方法は、「メタ認知」と言って、自分の気持ちを俯瞰して見ることです。
マインドフルネスは「今ここ」に意識を向けることによって、メタ認知能力を高める効果があります。
写真を通して、自分を客観的に理解することができるようになると、自分自身をより深く理解できるようになります。
そして、自分を深く理解できると、他者も深く理解できるようになり、人とのつながりを、より深く感じることができるようになります。
さっそく撮ってみよう
まず、大事なのは「上手に撮ろう」と思わないこと。
構図にこだわりたくなるかもしれませんが、そこにこだわると、自分の気持ちよりも、上手かどうかを気にしてしまいます。
次に、「カメラを使って、今ここを意識する」こと。
ハーバード大学の心理学者キリングスワースとギルバートの研究では、不快なこと、楽しいこと、中立的なことにほぼ関係なく、
「現在に」意識を向けているときの方が、幸福感が高いことが明らかになっています。
「今ここ」でシャッターを切ると、「意識」だけでなく「身体感覚」も加わり、より「現在」を体感できるようになります。
考えずに直観で撮る
アムステルダム大学の心理学者ドゥイツェルらは、2006年に行った実験で、複雑な決定を直感的に行うほうが、深く考えてから決定するよりも
優れた結果を生むことを発見しました。かれらは、これを「無意識的思考効果」と名付けて、直感の力を実証しました。
考えすぎて動けないタイプの人は、写真を撮ることで、直感が磨かれ、行動力が増すことが期待できます。
では、直観をもとに写真を撮るポイントをご紹介しましょう。
カメラ(スマホ)を持ち、自然の中に(街中でも良いと思います。)身を置き、思考するのをやめて、「今ここ」の自分の五感を通して、まわりを観察してみましょう。
そして、自分の心の声にも耳を傾けます。自分が何を感じているかを受け取ります。
普段、気づかない小さな変化も見逃さず、「今ここ」を感じてみるのです。
そして、心が動いたら、シャッターを切ります。
「今ここ」を心で感じて、何かを受け取った瞬間にシャッターを切る。そうして、世界と自分がつながる感覚が身に付くと、だんだんと直観を受け取りやすくなります。
気になった写真を直感で選んで見てみよう
精神科の中山康裕氏は、患者が自由に撮影した写真について話す「写真療法」を実施した結果、腹痛や頭痛が改善したそうです。
写真には、目に見える物質が写りますが、そこから「感情」や「想い」も受け取ることができます。
写真に写っているものだけではなく、撮ったときの気持ちや心を意識的にみて、「いいな」と思った写真を直感的に選んでみましょう。
「考えるのではなく、感じること」それが大切です。
「表現アートセラピー」の発案者で、心理学者のナタリー・ロジャーズは、「写真を含む、非言語によるアート表現は、自分の自由な気持ちを表現できる」と捉え、
クリエイティブ・コネクションという、独自のアプローチを開発しました。
これを行うと、創造的な表現を通して自己理解を深め、感情を表現し、問題を解決するための新たな視点を見つけやすくなります。
写真を通して、自分を解放することができるのです。
気持ちを書きとどめる
そして、写真を見ながら、あるがままの気持ちを言葉にして、思いつくままに書いてみてください。
感情の言語化に関連した研究として、アメリカの哲学者、心理学者のジェンドリンは、「体験過程理論」を提唱しました。
これは、人間の心の中にある「感情の流れ」に焦点(フォーカス)をあてたもので、言葉での表現が難しい体験が、イメージやシンボルとして表現されるという考え方です。
ジェンドリンは、この療法を「フォーカシング」と名付けました。「フォーカシング」は、私のカウンセリングや、廣瀬カウンセリングに近い概念です。
ジェンドリンは、さらに、「今ここ」で感じている、まだ言葉になっていない感情に注意を向けることが大切だと述べています。
この感情が言葉やシンボルに変換される過程を「象徴化」と呼び、それが心理的な治療につながると指摘しています。
撮影時には、まだ言葉にならない感情が、無意識にシャッターを切った瞬間に写真となります。(象徴化)
そして、その写真を振り返れば、感情を追体験でき、それを意識することで自分の気持ちに気づくのです。
書きとどめた言葉から「心の記録」を綴る
今度は、写真を見て、思ったことそのまま書いてみましょう。
心理学者のカール・ロジャーズは、1951年に「自己理論」を提唱しました。
この理論は、自分への認識と、経験の一致を目指すものです。
理想の自分と、現実の自分のギャップが縮まったときに、人は「ありのままの自分」を受け入れます。
自分自身に矛盾や不一致がある構造から、修正していく理論です。
写真で気づいた自分の本心を言葉にすることで、滞っていた感情が解き放たれていきます。
自分の写真を、評価、判断、否定せず、好きなところを見つけていくと、「これじゃだめ」「こうでなければ」という、
自分と理想の葛藤状態から、「こんな自分でもよいよね」「自分にもこんないいところがあるんだ」と、自分への認識が徐々に再構築されていくのです。
心の記録を、もう一人の自分が読む
もう一人の自分とは、さきほど書いた「メタ認知」です。
写真を見て、主観的に書いた文章を、今度は客観的に見るのです。
この主観的に書いた文章を、客観的に受け入れられたら、「自分を客観的に認知する」をつけていることになります。
テキサス大学の心理学者、ネフは「セルフ・コンパッション」という心理的な効果を提唱しています。
ネフは、愛する人への思いやりを、自分にも向け、どんな時もあるがままの自分を受け入れることで、心の状態が保たれると言います。
写真に撮って、観て、言葉にするプロセスは、マインドフルネスにもとづくセルフ・コンパッション(思いやり)のトレーニングになります。
セルフ・コンパッションも、吃音の治療に使われている心理療法です。
実は、「撮るマインドフルネス」は、この後もプログラムが続きます。
全部は紹介しきれないので、興味のあるかたは是非本を読んでください。
まとめ
写真を撮ることは、「今ここ」に集中することができる。
写真は、自分の心をありのままに写している。
ありのままとは、感情、思考、行動が統一された状態を表し、幸福感が高まる。
写真を撮ることは、興味関心や自分の価値観など自分の内側にもとづいて自律的に行動する「内発的動機づけ」(自己決定)になる。
写真を撮ったときの気持ちを眺めることは「メタ認知」になる。
「今ここ」を心で感じて、何かを受け取った瞬間にシャッターを切ると、直観力が増す。
写真を通して、自分の自由な気持ちを表現できると、自己理解を深め、感情を表現し、問題を解決するための新たな視点を見つけやすくなる。
また、写真を振り返れば、感情を追体験でき、それを意識することで自分の気持ちに気づくことができる。
自分自身の、理想と現実の矛盾や不一致がある構造から、修正していくことができる。
写真に撮って、観て、言葉にするプロセスは、マインドフルネスにもとづくセルフ・コンパッション(思いやり)のトレーニングになる。
よいことだらけですね!
スマホは、誰でも持ち歩いているし、ちょっとした時間で「撮るマインドフルネス」は実践できます。
ぜひ、みなさんも体験してみていただきたいと思います。
最後に、最近撮った写真を3枚載せます。毎日、こんな感じで撮っています。