吃音はテクニックで治る?

吃音を改善するテクニックとは。

成人の吃音を改善するテクニックには、臨床で行われるものから、吃音者の間で一般的に、工夫として行われるものまで様々です。
(ちなみに、このブログは、主に成人の吃音を対象としています。)
臨床で行われるものでは、主に流暢性形成法、吃音緩和法などがあります。基本的には、言語聴覚士の指導のもとで練習します。
また、吃音者が、一般的に行う工夫としては、随伴運動を使う、「あのー」「えーと」などの言葉を挟む、最初の音を延ばす(あーりがとう)、最初の音を小さく言う(ぁりがとう)、歌うように言う、人のものまねで話す、言いやすい言葉に言い換えるのも、広い意味ではテクニックと言えるでしょう。

テクニックで改善するのか?

これは、臨床で行われるテクニックと、吃音者が「工夫」として行っているテクニックを分けた方がいいと思います。
臨床で行われるテクニック(流暢性形成法、吃音緩和法)は、短期的には有効です。ただ、長期的には元に戻る人が多いと言われています。
次に、吃音者がよく使うテクニックは、一時的には効果がありますが、段々と効果は薄くなっていくことが多いようです。
緊急避難的に使った方が良いかと思います。

長期的に改善しない理由は。

数か月前に、ある吃音の有名な研究者(耳鼻科の医師です)と、メールで意見交換をしていました。
その中で、「流暢性形成法が使える人と、使えない人との違い」について、そのかたのご意見をいただきました。
使える人の特徴は、苦手な場面であっても、冷静に学んだテクニックが使える人。使えない人の特徴は、苦手な場面で、頭が真っ白になってしまう人だそうです。
その方のご意見としては、「心理的な援助をしないでテクニックだけを身につけても使えないことが多い。」ということでした。
つまり、大事な場面で、頭がパニックになったり、不安に押しつぶされて冷静になれず、せっかく練習したテクニックが使えなくなってしまうということです。

また、吃音者がよく使うテクニックが長続きしないのは「慣れてしまう」からです。吃音の症状は、吃音に注意が向くときに出やすいので、注意をそらす方法(普段と違うことをする)を使うと、一時的に症状が出ないことがあります。
また、随伴運動のように、最初の声を出す前に、何かアクションを起こすときっかけがつかめて言いやすくなることがありますが、これも慣れてしまうと使えなくなります。私は「あのー」を付けると、言いやすかったのですが、調子が悪いと「あのー」も言えなくなり、「あのー」を何回も繰り返してしまうことがよくありました。

テクニックだけでは改善しない。

ここからは、私の個人的な意見ですが、テクニックを練習して身に着けること自体は良いことだと思いますが、それだけに頼るとあまり改善しないと思います。
ポイントは、先ほどの、「吃音の不安に呑み込まれずに、冷静になれるか?」だと思うからです。ちなみに、不安のレベルがかなり低い状態にコントロール出来る人は、テクニックも必要ないと思います。ほとんどの吃音者は、一人ではどもらないからです。

また、心理学の立場からするとテクニックに頼りすぎるのは、落とし穴があります。
ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という、第三世代の認知行動療法の考え方の一つに「体験の回避」というものがあります。
「体験の回避」とは、心理的苦痛(嫌な感情や、思考)を避けようとする行動のことです。これは、誰にでもあることですが、この気持ちが強すぎると、何をしても返って苦しみが増してしまう逆転現象が起きます。例えば、「緊張してはいけない」と、何か別のことを考えたりしても、返って緊張に呑み込まれてしまうことはないでしょうか?
つまり「どもりたくない」という気持ちが強ければ強いほど、苦手な場面でテクニックが使えなくなるほど不安に呑み込まれてしまうということです。
この場合は、緊張している自分を否定せず、ありのままを見つめながら、客観視するのが最善の方法です。

私は、「テクニックだけでは改善しない」ことに気づくことが重要だと思います。(ただ、テクニックだけで改善する人は、それはそれで良いと思います。多分自己肯定感が高い人などは、テクニックだけで改善するかもしれません。)
再びACTの話になりますが、「創造的絶望」という考え方があります。不安をコントロールすることに絶望し(無駄であると諦め)別の道を切り開くという意味です。
つまり、テクニックを使うことの奥に、「嫌な思考や、不安をなんとかしたい」という気持ちが強すぎると、返って、不安や苦しみが増してしまうので、不安を何とかコントロールしようとするのではなく、ありのままを受け入れることに目を開くという意味です。

私自身は、今でもテクニックを使います。ただ、不安な自分を受け入れることが出来るようになったため、「体験の回避」をしなくなり、テクニックが生きるようになりました。本来なら、テクニックを使わなくなるくらい改善すればよいのですが、ほぼ困ることがなく、吃音で人生に制限があることはないので、今のままで満足しています。
本来、成人の吃音は、心理的要因が大きいので、テクニックだけで改善するのは難しいと思いますし、仮にテクニックだけで改善しようとすると、かなりの努力と時間が必要になってくると思います。

まとめ

吃音を改善するテクニックには、臨床で行われるものでは、主に流暢性形成法、吃音緩和法などがある。
しかし、短期的には有効だが、長期的には元に戻る人が多い。
一般的な「工夫」としては、随伴運動を使う、言葉を挟む、最初の音を延ばす、最初の音を小さく言う、歌うように言う、人のものまねで話す、言いやすい言葉に言い換えるのなどがあるが、一時的な効果にとどまる。
理由は、不安に押しつぶされて冷静になれなくてテクニックが使えなかったり、注意をそらしても慣れてしまうから。
また、不安が強く、不安をなんとかしたい気持ちのままテクニックを使うと、逆効果になることがある。
テクニックは、心理的支援(心理療法やカウンセリング)と併用した方が、効果が高い。
と、言えると思います。(実際、ACTと言語訓練を組み合わせると、かなり効果が高いという論文が最近出ています。)


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