流暢性形成法とマインドフルネスの関係についての考察

皆さま、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
去年は、吃音のカウンセリングに加えて、各地の言友会でACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)のセミナー、心理クリニック併設のカウンセリング養成講座での講演、小平市市民講座での吃音に関するセミナー、日本吃音・流暢性学会でのポスター発表など、幅広く活動出来ました。
しかし、何よりもカウンセリングを通して吃音の悩みかた抜け出し、自分の人生を活き活きと楽しんでいるかたがいらっしゃることがなにより嬉しいです。

さて、今回は流暢性形成法とマインドフルネスの関係について書いてみます。
でも、ちょっとでも吃音に詳しいかたなら「???」と思うでしょうね。この二つは全く異なるアプローチだからです。
まず、流暢性形成法は言語聴覚士が行う、吃音の訓練法の一つです。
「絶対にどもらない話し方は非現実的であるが、吃音症状が生じにくい話し方は存在する。⑴発話速度の低下⑵軟起声⑶構音器官の軽い接触⑷呼気段落内での慌てない滑らかな呼気等のスキルの話し方」(成人吃音例に対する直接法 坂田善政2012)
別の言い方をすると、どもるという発話現象を一度分解して、一からプロセスを組み立て、徐々に般化させる取り組みだと私は理解しています。
ただ、これだけだと、言語聴覚士の前ではどもらなくなるが、日常では再発するケースが多いと思います。理由は主に心理的ケアをしていないからです。
だから、認知行動療法を組み合わせるケースが増えてきているのですね。

対して、マインドフルネスは「今、ここに集中し、五感を使って感じたことをありのままに受けとめ、評価しないこと」です。
これを吃音の心理的支援に活かすとすれば、予期不安や後悔ではなくざっくりと言うと「今、ここに集中しているときは悩んでいない」ということになるかと思います。
ただ、これだけだとマインドフルネスの一側面しか説明していません。
他にも大事な要素があり、それが「自動操縦状態からの脱出」です。
自動操縦状態とは、私たちが日常生活の中で,「何気なく」「無意識的に」「機械的に」振る舞ってしまうことがあるように,思考,記憶,感情,計画など何らかのことに捉われて無自覚に行動している「心ここにあらず」な状態を指す(Segal, Williams, & Teasdale,2002)です。
例えば、車の運転は、最初は緊張していて、すべての操作に意識を向けていないと出来ないと思います。しかし、段々と慣れてくると、それらは無意識に出来るようになる、音楽を聴きながら、人とおしゃべりしながら運転できるようになります。
これ自体が悪いことではなく、自動操縦が出来るから私たちはいろんなこと同時にこなすことが出来るのです。
ただ、心理的には問題になることもあり、その時は自動操縦状態を止めて、今行っていることに意識を向けた方がよい場合もあります。
その方法が、マインドフルネスです。

私たちは、幼いときから話ていて、しゃべることについてはほぼ自動操縦状態だと思います。
話している時に、自分の発話プロセスや身体感覚を気にする人はいませんね。そんなことをしたら、話の内容に注意が向かなくなってしまいます。

私は、自分の吃音症状の変化をずっと観察してきて、何か改善の要素で、それを他の人で再現出来うるか?が一つのテーマなのですが、その一つが「難発の時に、どうやって声をだすか」です。
これは、廣瀬カウンセリングの時から「吃音症状の身体感覚の観察」を行ってきて、実感していることは、「集中して観察しているときは声は自然と出てくる」ことです。そして、それをもっと細かく分析していくと、その要素として「息を吸っているか?」「息を吐こうとしているか?」「息が流れているか?」「発話器官が出したい声の形になっているか?」「声帯は響いていいるか?」「最初の音と二番目の音とのつながりはスムースか?」「ブロックされている時は呼吸が流れているか?」などを瞬時に観察しています。(もちろん常に観察している訳ではなく、症状が出そうな時だけです。)
これを別の言い方に変えると「発話のプロセスを丁寧に行っている」ことになります。
この「丁寧に行っている」ことは「今、ここに集中する」ことと同じなので、これはマインドフルネスだと考えています。
逆に言えば、どもっているときは「自動操縦状態」であり「悪い癖に呑み込まれている状態」だと思います。
これは、スポーツ選手が、悪い癖を改善するときに、フォームを一から組み立てなおすことに似ているかもしれません。

いかがでしょうか。最初にご紹介した流暢性形成法と似ていませんか?もちろん、元になる考え方は全く違うので、細かい部分で異なりますが、発話プロセスを一つ一つ丁寧に組み立てていく手法は似ていると思います。

ちなにみに、去年日本吃音協会で行った私のセミナーでこのことをお話したら、ある専門家に「それは直接法では?」と質問されました。
(直接法とは、言語訓練で治す方法で、心理カウンセリングなどは間接法になります。)
確かにそうかな?と思いましたが、これからは「直接法」と「間接法」の違いもなくなっていくのかもしれません。
また、マインドフルネスを深く習得すると、流暢性形成法のような言語訓練の効果が高くなる可能性は大いにあるのかなと思います。

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