心理学から考える、阪神の「アレ」
阪神が優勝しましたね。2005年以来、18年ぶり6回目のセ・リーグ優勝だそうです。
私は埼玉県に住んでいるので実感はないですが、関西の盛り上がりは凄そうですね。
さて、今回の優勝ではじめて知ったことですが、岡田監督は「優勝」という言葉を使わずに「アレ」と言っていたそうですね。
確かに「優勝」という言葉を使うと、意識してしまい、プレッシャーがかかって実力が発揮できなくなることはよくありますね。
実際、プロ野球でも、優勝を意識しすぎてなかなか決められないということはよくあることだと思います。
岡田監督が「アレ」を使って、実際その効果がどうだったのか?は分かりませんが、これは心理学的には有効な方法だったと思います。
心理学の中でも、行動分析学の一分野に「関係フレーム理論」というものがあります。
これは、簡単に説明すると、人間の言語や認知に対し、予測と制御(良い行動を増やし、悪い行動を減らす)を目的とした場合に役に立つ理論です。
ちなみに、私が行っているACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)はこの関係フレーム理論が理論的なベースになっています。
関係フレーム理論では、ある言語に特定のイメージ張り付くと、それを取り払おうとすればするほど関係は強くなると説明しています。
例えば、「レモン」という言葉を思い浮かべると、「レモン」の見た目や味、においなどが同時にイメージされるのですが、これを取り払おうとすればするほど、「レモン」にまつわるイメージが強化されて、頭から離れなくなってしまいます。
プロ野球選手や監督、球団関係者にとって「優勝」という言葉はなかなか厄介な言葉だと思います。
プロである以上、優勝を目指さなくてはなりませんし、阪神ファンからのプレッシャーは特別なものでしょう。18年優勝していなければ、ますますプレッシャーがかかりますよね。
そして、「優勝」を強く意識しながら優勝出来なかった場合、「優勝」という言葉と「優勝出来なかったイメージ」例えば、ファンからの非難中傷やマスコミや評論家からの評価、自分自身への不甲斐なさなどとの間に「関係フレーム付け」が出来てしまいます。
そして、選手や監督、球団関係者が「優勝」したいと思い、「優勝」という言葉を使えば使うほど皮肉にも「優勝出来なかった」イメージが同時に思い起こさせられるのです。
それが実際のプレイや采配に微妙に影響することは十分考えられます。
「いや、単なる言葉だよね。」と思われるかもしれませんが、言葉には「言霊」と言われるように「力」があるのです。
例えば、自分に対して、毎日「おまえはバカだな」とつぶやいてみてください。
ものすごくネガティブになります。
呪文も言霊です。人々は昔からそれを体験的に知っていたから、呪文や仏教の真言、陀羅尼などが出来てきたのだと思います。他の宗教にも呪文がありますね。
言葉というものは、人類にとって良い面(表現すること、知識を分かち合う、計画を立てる、未来を予測する、過去の過ちを反省する)など様々なことを可能にしてくれますが、悪い面としては(嘘をつく、人を操る、悪口を言う、過去のつらい出来事を追体験する、自分と他者を比較、判断、批判する)という面も持ち、我々を苦しめるのです。言葉の力は、表裏一体なのですね。
ほとんどの吃音者は常に「どもってはいけない」と思っています。そういう言葉を無意識に頭の中で呟いているわけです。
それは過去にどもって恥ずかしい思いや、嫌な思いをしたからです。
中には、そんなレベルではない苦しい思いをした人もいるでしょう。
しかし、先ほどの「優勝」の例にあるように、「どもってはいけない」とか「どもりたくない」と頭の中でつぶやけばつぶやくほど、どもっていやな思いをした時のイメージが同時に思い起こされてしまい、過去と同じような反応を繰り返してしまうということになります。
野球の場合は「優勝」を意識しないようにすればいいと思うかもしれませんが、さきほど書いたように、意識しないように努力すればするほど強く意識してしまうのです。
なので、岡田監督の「アレ」に置き換えた方法は秀悦だと思います。
吃音の場合は「アレ」に置き換えるのは難しそうですが、言葉との関係フレーム付けを弱めることができます。
これが出来ると、吃音を忘れたり、吃音に注意が向いていな状況を作ることが出来ます。
方法としては「言葉」にとらわれない感性を自分の中に作り上げることです。
まだ「言葉」にならない、何とも言えない感覚を五感で感じて自覚すること。
つまり、言葉で考えるのではなく、言葉にならない感覚を感じること。です。
これには芸術が役に立ちますし、マインドフルネス瞑想も役に立ちます。
どちらもトレーニング次第で強く出来ますので、私はマインドフルネスを習慣化することを勧めています。