「思考」が吃音改善のじゃまをする。

NPO法人日本吃音協会でのセミナーを終えて
(この記事は2023年9月4日のリニューアルです。)
先週の土曜日は、NPO法人日本吃音協会の事務所でセミナーを行わせていただきました。
なるべく受講者が集まるように、スタッフの方々が親身になって考えてくださり、おかげ様で10人の方が来てくれました。
来られた方の中には、お子さんが吃音の方、遠く長野から来られた方、わざわざ有給休暇を取ってくださった方、私のグループカウンセリングのメンバー、大学院の博士課程で吃音の研究をされている方もいらっしゃって、かなりバリエーションに富んだ集まりになりました。
普段のカウンセリングはリモートなので、やはりリアルでお話するのはいいものですね。
また、セミナーに何を求めているか?についてお聞きしたところ、「吃音を改善したい」というご意見が多かったのも印象的でした(吃音の改善と告知しましたからね)。
さて、セミナーの内容ですが、ACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)についてでした。様々な方がいらっしゃったので、全員に満足のいくお話ができたかどうか分かりませんが、ぜひご感想を聞かせていただきたいと思います。
「手のマインドフルネス」というエクササイズ
今回のブログのタイトル「思考」が吃音改善のじゃまをする、というのは、さきほどセミナーの様子を思い出した時に考えたことです。
セミナーの後半に「手のマインドフルネス」というエクササイズを行いました。何をするかというと、自分の「手」を5分くらいじっと見るのです。
もちろん、ただ見るのではなく「マインドフル」に見るので、私のガイドに添って見ていただくのですが、ちらっと周りを見たら、見ていない方もいらっしゃいました(これは他のセミナーでも、だいたい一人か二人はいらっしゃいます)。
もちろん、それは自由ですし、強制されてするものではないので全く問題はないのですが、こういう場合の心理は「こんなことをやっても意味がないよ」と思っていらっしゃるのではないでしょうか。
これは当然のことで、理屈から言っても、手を見たからといって吃音が改善することには結びつきませんよね。実際に手を見ていた方も、きっと半信半疑だっただろうと思います。
行動の前にある「思考」というブレーキ
こうして行動に移す前に考えることを、ACTでは「思考」や「マインド」と呼んでいます。実際に行動する前に、考えて答えを予想するのですね。
これは人間にしかない思考能力で、これがあるからこそ人間は文明を発達させ、豊かになれたとも言えます。天気予報を見て傘を持っていく、経験から危険を避ける——こうした「予測して備える」機能は、生活のあらゆる場面で私たちを助けてくれています。
しかし、こと内面の問題となると、この「予測して備える」思考が役に立たない場合が出てきます。自分の心理的苦痛を「思考」によってコントロールしたり、予測して解決しようとすると、うまくいかないばかりか、逆に大きくしてしまうのです。
「手のマインドフルネス」を行うとき、「意味がない」と思うのは「過去の経験からくる先入観」だと思います。本当は、まだ一度もやったことがないのだから、何が起こるかは分からないわけです。何かが起こるかもしれないし、何も起こらないかもしれない。だから私は「初めて見たように」とお伝えしています。
仮に、過去にやってみて何も起こらなかったとしても、「今」なら何かが起こるかもしれません。こういう「決めつけない」姿勢が、吃音の改善には必要なのです。
予期不安もまた「決めつけ」である
吃音には予期不安がつきものですが、これもある意味「決めつけ」です。「こういう場合はどもるだろう」と決めつけてしまうから、不安になるわけです。
では、現実はどうかというと、「その時になってみなければ分からない」というのが正解です。つまり、その時までは不安になる必要などないのに、余計な心配をして、症状を自ら重くしているとも言えます。
セミナーで「自ら反応パターンを大きくしている」とお話ししましたが、これがその具体例です。頭の中で先回りしてシミュレーションを繰り返すほど、体はその予測に反応して緊張し、結果として本当にどもりやすい状態を自分でつくり出してしまうのです。
「思考」を手放すということ
もちろん、それはごく普通のことで、簡単に予期不安や思考を消すことはできません。
しかし、マインドフルネスの習得によって「思考」を手放すことはできます。「手放す」というのは、思考を無理に消し去ることではなく、「これは思考であって事実そのものではない」と気づいた上で、その思考に振り回されずに、今この瞬間の行動を選び直せるようになることです。ACTではこれを「脱フュージョン(defusion)」と呼びます。
マインドフルネスのさまざまな有効性については、すでにエビデンスがあります。あとは、それを吃音にどう応用していくか、という段階に入っています。
学会でのポスター発表について
というわけで、そのような内容を日本吃音・流暢性障害学会でポスター発表いたします。
これからの吃音の臨床は、「マインドフルネス」「認知行動療法」「セルフコンパッション」の時代になっていくでしょう。
ただ、私は学会での発表などしたことがないので、右往左往すると思いますが、皆さんももし来られたら、ぜひ見に来てください。よろしくお願いいたします。


