Chatter「頭の中のひとりごと」をコントロールし、最良の行動を導くための26の方法。

先日この本を読んだので、書いてみます。
ちなみに内容に触れますので、これから読もうと思っている方はご注意ください。
今までのブログで「悩みとは頭のなかのおしゃべり」と書いてきましたが、それに近い内容に思えたので読んでみました。著者はイーサン・クロス。実験心理学者にして神経科学者です。ミシガン大学に自ら創設し所長を務める「感情と自制研究所」で「内省の科学」を研究している方です。この研究所では、人々が自分自身と交わす無言の会話──つまり「頭のなかのおしゃべり」について研究しています。これはACTでいう「マインド」や「思考」に近いものではないかと思います。
チャッターとは何か
チャッターとは「頭のなかのひとりごと」であり、「循環するネガティブな思考と感情」のことです。私たちは仕事での失敗や人との争いについて繰り返し考え、否定的な感情で頭の中がいっぱいになってしまいます。さらに解決しようと内省しても、逆に自分を批判的に見てしまうのです。
この独り言のスピードは非常に早く、声を出して1分間に4000語を発するのに匹敵するそうです。
内なる声を失ったときに起きたこと
このチャッターを失うという稀な経験をした人がいます。神経細胞学者のジル・ボルト・テイラーです。彼女は脳の左側の血管が破裂し脳卒中を起こしました。その結果、言語的思考を失い、当初は「自分の人生とのつながりを断たれてしまった」と感じたそうです。
ところがその後、内面の会話が消え去ったときに、彼女はかつて感じたことのない安らぎを経験します。
「その沈黙がもたらした絶え間ないチャッターからの一時的な解放を歓迎した」と書き残しています。これは「忘我の境地」とも言える体験でした。
手術と長い回復を経て研究を続けながら、彼女は「内なる批判者が沈黙したときに得られる幸福感」について語っています。
スポーツの世界におけるチャッターの影響
カージナルスの投手リック・アンキールは、有望視されながらもある暴投をきっかけにチャッターに支配されました。彼が「モンスター」と呼んだチャッターは、情け容赦ない内なる批判者であり、言語的思考の流れそのものでした。
彼は暴投を繰り返し、やがてメジャーリーグから姿を消しました。なぜ才能ある投手が崩れてしまったのか?
それは「自分自身との会話が注意力にどう影響するか」に関係しているとこの本では説明しています。
チャッターは障害にのみ注意を向け、それ以外の大事なことを無視するよう仕向けます。結果として「分析麻痺」が起き、身体の動きが「総体」として機能しなくなるのです。
これは吃音にもつながります。発話は自動化された高度な機能であり、部位を意識しすぎると逆に話せなくなる。吃音が「一人では出にくい」理由も、意識の向け方と関係しているのかもしれません。
チャッターと脳・遺伝子への影響
チャッターは脳の前頭前野にある「実行機能」(論理的思考・問題解決・自制心)を弱めます。さらに驚くべきことに、チャッターは遺伝子の発現にも影響を与えるのです。
従来は「遺伝子+環境=私たち」と考えられていましたが、エピジェネティクスの研究によって「心理状態や経験」が遺伝子の発現を左右することが分かってきました。カリフォルニア大学の研究では、慢性的な脅威やストレスが遺伝子の働きに影響を及ぼすことが示されています。つまり、心の在り方が生物学的なレベルにまで及ぶのです。
チャッターを制御する方法
では、チャッターをどう扱えばよいのでしょうか?
本には26の方法が紹介されています。その一部を挙げます。
- 距離を置いた自己対話
頭の中のおしゃべりで「私」ではなく「あなた」と呼びかけることで、思考との距離を取ります。ACTでいう「観察する自己」に近いものです。 - 儀式を行う
スポーツ選手が緊張時に一定の動作をするように、呼吸や瞑想など自分だけの儀式を行うとチャッターが鎮まります。私自身も吃音が出そうなときに呼吸を整えることがあります。 - 目に見えない支援をする
掃除など目立たない形の支援行為が、心を落ち着かせます。 - 畏敬を誘う経験を求める
自然や芸術に触れることで、自分の問題を相対化し大局的に見ることができます。
これらは難しいものではありませんが、普段の生活では見落としがちな工夫です。
吃音と「我」の関係
まとめると、チャッターや思考は「個我」と結びついているように思えます。ジル・ボルト・テイラーが「忘我の境地」に達したように、私たちも「我」とどう付き合うかが大切です。
吃音は対人関係で出る症状だからこそ、「我」の意識が重要なポイントになります。チャッターを理解し、自分との関わり方を工夫することが、吃音当事者にとって大きな助けになるのではないでしょうか。