人間だけが不安を広げてしまう理由──関係フレーム理論で吃音を読み解く

はじめに:なぜ「まだ起きていないこと」に苦しむのか?
私たち人間は、過去の失敗を思い出しては落ち込み、まだ起きていない未来を心配して不安になります。
これほどまでに「言葉」によって感情が動かされるのは、人間だけの特徴です。
この記事では、心理療法ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)の基盤理論である「関係フレーム理論(RFT)」をもとに、なぜ人間の不安や吃音が広がっていくのかを解説します。
体験してないのに怖くなる?──人間だけに備わった特殊な学習とは
犬は餌を与える前に「ごはん」と言うことを繰り返すと、「ごはん」という言葉に反応し、本物の餌が出てくるかのような振る舞いをします。これは「ごはん」という言葉と餌が条件付けられて学習されていることを表します。
ところが、犬が学習できるのはここまでで、餌を食べたあとのおなかがいっぱいのときに「ごはん」と言っても、条件付けは行われません。
しかし人間はごはんを食べた後でも「ごはん」と言うことを繰り返すと、「これが“ごはん”なんだ」と認識し、「ごはん」という言葉と実物のごはんとの間に条件づけ学習が行われます。
人間はこうして言葉を覚えていくのですが、これは人間だけが持っている特別な学習能力で、この能力が言語を発展させたと考えられています。
この能力は「関係フレームづけ」と呼ばれ、「AはB」「BはC」なら「AはC」といった派生的な認知が可能になります。
実際に「C]は体験していなくても、言葉同士のつながりによって新しい意味を作り出せるのです。

なぜ言葉だけで怖くなるの?──記憶が感情に変わる仕組み
ここで「刺激機能の変容」という考え方を紹介します。
たとえば、猫を見たことがない子どもが「Neko」という言葉と猫の写真を見て、言葉とイメージの関係フレームを形成したとします。
そして初めて本物の猫と触れ合ったときに引っかかれて痛い思いをしたとしましょう。
それ以降、その子どもは「Neko」という言葉を聞いただけで泣いて逃げてしまうかもしれません。
しかし実際には、「Neko」という音に引っかかれるような危険はありません。
この現象は、「Neko」という言葉と「痛み・恐怖」の感情が関係づけられた結果、言葉に恐怖の意味が移った(=刺激機能が変容した)ということを意味します。

吃音がどんどん広がっていく理由──体験してないのに不安になるワケ
この関係フレームの仕組みは、吃音の悩みにも当てはまります。
たとえば、ある上司との会話中に吃音が出たとしましょう。
その出来事が「恥ずかしい」「うまく話せない」という感情と結びついた場合、やがて「別の上司」「職場の会話全体」といった、直接体験していない場面にも同じような不安が広がっていきます。
これが派生的な関係づけです。
また、「上司=吃音=恥ずかしい」という関係が作られると、「その上司に似た雰囲気の人」や「その話題」までもが不安のきっかけになることがあります。これが刺激機能の変容です。
また、過去に電話でどもって恥ずかしい経験をした人は、電話のベルがなっただけでも、実際にはなにも起こっていないのに、どもった体験をしたようになります。
これも、関係フレーム付けが出来ているからです。
考えすぎて苦しくなるのは、言葉のせい?──人間だけが持つ“心のクセ”
人間は言語を発達させたことで、未来を予測したり、過去を振り返ったりできるようになりました。
これにより、貯金計画を立てたり、長期的な戦略を練ったりすることが可能になりました。
しかし同時に、私たちは「言葉」によって自分を苦しめるようにもなりました。
- 他人と自分を比較して落ち込む
- 過去の失敗を思い出して自己否定する
- 起きていない未来を想像して不安になる
これらはすべて、人間が持つ「言語的な認知機能」の副作用です。
グルグル思考から抜け出すには?──ACTが大切にする「今ここ」の力
ACTでは、こうした「言葉によって引き起こされる苦しみ」にアプローチする心理療法です。
ACTでは、思考を「頭のなかのおしゃべり(ボリュームゼロの会話)」ととらえます。
そして、その思考はすべて「言語」によって生まれたものであり、必ずしも現実とは一致していません。
人はときに、言葉の世界に閉じ込められてしまい、「今ここ」で起きている現実を見失ってしまいます。
ACTでは、この「言葉の支配」から距離をとり、「今この瞬間に意識を向ける力=マインドフルネス」を重視します。
吃音のある人にとっても、過去の失敗や未来の不安から距離を取り、「いまこの瞬間に、どう話したいのか」に意識を戻すことが、自由な自己表現への一歩になります。
まとめ:不安に振り回されないために──言葉とのつきあい方を変えてみよう
関係フレーム理論は、「人間はなぜ、体験していないことにも苦しむのか?」という疑問に対して、言語のしくみから明確な説明を与えてくれます。
言葉は、私たちを成長させ、つながりをつくり、未来を描く手段になります。
同時に、不安や苦しみの原因にもなり得ます。
ACTは、その言葉に振り回されるのではなく、「今、この瞬間をどう生きたいか」に焦点を戻す心理療法です。
吃音に悩む方にも、この視点は大きなヒントとなるでしょう。