アニー・ブラッドベリー氏(元全米吃音協会ディレクター、前国際吃音連盟会長)のお話を聞いて

今日は東京言友会で、アニー・ブラッドベリー氏(元全米吃音協会ディレクター、前国際吃音連盟会長)を迎えて、アメリカの吃音事情やアニーさんの吃音の経験などをzoomで聞かせていただきました。

 アニー・ブラッドベリー氏は19歳の時に全米吃音協会(NSA)に参加し、後にNSAのディレクター(専従職員、1993-2003年)また国際吃音連盟(ISA)の会長(2016-2019年)を務めました。現在もNSAの理事をされており、南カリフォルニアに本拠を置く非営利組織(NPO)の職員として働いています。

講演には、日本の臨床家や古くから言友会で活動されているかた、様々な方が37人くらい参加していらしゃいました。

講演会の前半はアニーさんの吃音の体験からのお話、後半は質疑応答でした。
アニーさんのお話で、特に強調されていたのが「自分で自分のじゃまをするな」ということです。
アニーさんは学生の時に、あるドーナッツのチェーン店でアルバイトをしていたそうです。
しかし、吃音が理由でクビになってしまった。
家に帰って落ちこんでいると、父親が「何を感じるかは自分次第。他の人は関係ない。
自分が何をしたいか?が大切。おまえは何をしたいんだ?」と言ってくれたそうです。
私も話の細かいところまでは覚えていませんが、その後アニーさんはクビになったドーナッツ屋とは別のチェーン店でアルバイトを始め、しばらく働いたあと、自分の意思でやめたそうです。
一回目は辞めさせられた、二回目は自分の意思で辞めた。
自分の意思で「主体的に決めた」ことで、目の前が大きく開けたそうです。
その時のことを「額縁にはめて壁にかけたい」と言っていました。

次のお話はやはり学生の時、カミングアウト出来なかったのが、徐々に吃音の苦しみの方が大きくなり、ついに先生からクラスメートに吃音のことを話してもらったそうです。
もちろん心臓どきどきですが、先生が「アニーの吃音のことどう思う?」と訊いた時に、
皆はかたをすぼめてどうでもいい仕草をしたそうです。
気にしていたのは、アニーさんだけだったのですね。
このことを、アニーさんは「思い込みが邪魔をした」と言っていました。
このことも、額縁に入れて壁にかけたいそうです。

最初のお話で、私が真っ先に思ったのが、カウンセリングでも重視している
カールロジャーズの仮説です。

「有機体としての人間の本質は、主体的に生き、責任を持って考え感じ
経験する。そして、このような人間の特質は、環境からの刺激、あるいは
恐れ、怒り、不快、喜びなどの内蔵感覚的刺激とその反応を完全に自覚できるならば、自らを真の人間的な生き方へと導くことができ、もし、これらの刺激を
自覚できずに否定したならば、その行動は不適応に向かってしまう。」

特に、この「主体的に生きる」は大事だと思います。
自分の人生は自分で変えられるのと思うからです。

次の「思い込みが邪魔をした」のお話は、最初の「自分で自分のじゃまをするな」に通じますね。
思い込み=思考、妄想なので勇気を出して訊いてみることも、結果として自分をラクにしてくれるのではないでしょうか。

もう一つ印象に残った言葉は「相手の視点から見てみようと思った」です。
私はいつも「吃音は自我への執着」と言っていますが、相手の視点から見ることは
自我への執着から離れることが出来ます。
私は後半の質疑応答の時に、アニーさんにそう思えたきっかけを質問しました。
お母さんが入院した時に、食べ物についてアニーさんが看護師に食べられないものを説明した時にひどくどもったそうで、それで相手の看護師は大笑いしたそうです。
そこでアニーさんが「吃音なんです。」と伝えると、相手は急に恥ずかしい顔になり
謝ったそうです。
それに対して、アニーさんも怒ったりはせす、それで終わったそうなんですね。
つまり、相手の立場(吃音だったと知らない)を理解すれば、自分も落ち込んだり腹を立てたりすることもない、ということです。
自分が吃音だと相手に知らせること、やって欲しくないことをちゃんと教えないと
相手もどうしていいか分からない。
これをアニーさんは、犠牲者になるのではなく、伝えることは自分にも責任があると言っていました。

アニーさんはどんな小さなことでもいいので、前進することが大切で
それを「ベイビーステップ」と言っていました。
例えば、「相手の話を全力で聴く」ことも、ベイビーステップなんだそうです。

グループカウンセリングでも、相手の話を真剣に聴くことを目指していますので、
同じことを感じているのだなと思いました。

最後にアメリカでの吃音の治療の現状についてのお話があり、
発声の矯正よりは「受容」の役割が大きくなってきていてるとお話されていました。
つまりカウンセリングがより重要視されているということではないかと思います。

今回はカウンセリングなどの専門的なことはお答えにならなかったので、
次回はアメリカの言語聴覚士さんも参加してアメリカの吃音治療のお話も聞かせていただけそうです。
どなたでも参加できると思いますので、皆さんもよかったら参加してみてはいかがでしょうか。

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