吃音者が電話が苦手なわけ

電話が苦手な吃音者は多いですよね。私も苦手でした。
若いころは携帯電話などなくて、やむなく友達に電話するときも自分の名前を言わなければなりませんでしたから、怖くて出来なかったですね。
電話しても相手の表情が分からない、身振り手振りで伝えられないのもプレッシャーになりますね。
ただ、電話が苦手になるのは、それでけではないと思います。
そのことについて、カウンセリング心理学の立場から書いてみます。

先ほど書いたように、吃音者が電話が苦手になる要素は確かに多いです。
そして、実際にどもることも多いでしょう。
ただ電話が苦手な人は、電話を見ただけで緊張するとか、電話が鳴っただけで自分とは関係ないのに心臓がどきどきする場合も多いのではないでしょうか。
その場合は「アンカリング」(条件付け)が発動している可能性があります。

「パブロフの犬」で有名なロシアの心理学者イワン・パブロフが行った「条件付け」に関する
研究をご存じの方は多いでしょう。
彼は犬に餌を与える時に、「チーン」と呼び鈴を鳴らし後で肉を与えました。
それをしばらく続けた後に、今度は呼び鈴だけを鳴らしたのです。
すると、餌は用意されていないのに犬はよだれをたらしたという話です。

これは、犬の中に「呼び鈴=肉を食べられる」という連想体系(条件付け)が出来たことを意味します。
この条件付けも、「インパクト」と「繰り返し」によって出来たプログラムだということがわかるでしょう。
ただ、この「パブロフの犬」の話を聞いて、単なる動物実験だと思わないでほしいのです。
なぜなら、「条件付け(プログラム)」は犬よりなるかに人間の方が多いからです。
人間の脳は犬よりはるかに優秀なので、良い意味でも悪い意味でもはるかに広い範囲で条件付けを身に着けるのです。

このシンプルな「刺激→反応」の条件付けのことを、カウンセリングではアンカーといいます。
また、条件を付けることをアンカリングと言います。



アンカリングのメカニズムは、「強烈な感覚や感情」があり、それを発火させる「五感」が
結び付いているということです。

例えばこれは良い意味でのアンカーですが、昔友達と遊びに行ってすごく楽しかった。
その時によく聞いていた曲を、今聴くとその時の楽しさがよみがえるということは誰にでもあるのではないでしょうか。
これは、その時の「楽しかった感情」が「曲を聴く」という五感によって、呼び戻されたのですね。

もうお分かりだと思いますが電話が苦手というのは、このマイナスのパターンです。
「電話で恥ずかしい思いをした」という「強烈な感情」が、「電話が鳴る音を聞く 」という
五感によって呼び出され、余計に緊張が高まるのですね。

条件付けにおいて、これと同じような事は他にもあると思います。
例えば「○○行でどもる」という人は多いですね。
確かに行によって発話形成が似ているので、苦手意識が付きやすいということはあると思います。
しかし、どもる条件はそれだけではないです。
例えば、次の音への繋がりや全体の抑揚やリズム感なども大きく影響しますので、
行がすべてではありません。
しかし、そこで○○行という条件付けを自分でしてしまうと、本当にその行が苦手になってくるのです。
つまり、苦手な言葉は条件付けによって自分が作り出しているというのが私の考えです。

私の場合は、最初はさ行は得意で、あ行やま行が苦手だと思っていました。
自分の名前が言えないのも条件付けです。絶対に言い換えが出来ないので、条件が強化されます。
今から思えば、名前(まだ)が言えない→「ま」が言えない→ま行が言えない。
と、自分で条件付けをしてきたのかもしれません。

では、どうすれば条件付けを変えることが出来るのでしょうか?


それは簡単なことではないですが、まずは自分がどのような条件付けをしているか?を自覚することが最初の第一段階です。

大事なのは、よく観察してそのもの(条件)と、それによっておこる感情(反射)を知ること。分かること。
感情を観察して受け入れると、症状は消えていきます。

私の場合は、観察をしていくと徐々に苦手な行が変化してきて、ま行などは言えるようになりましたが、今度は得意だったはずのさ行でどもることが出てきました。
これは、多分以前もさ行でどもることがあったのに、観察してなかかったからだと思います。
そして、苦手な行は変化しつつ、徐々に消えていきました。
今は、時々どもりますが、苦手な行という認識は全くありません。
どもったという事実はありますが、そこに条件付けはないのです。
だからどもる頻度がグッと減ったのですね。

吃音がある程度改善した人の話を聞いていると、カウンセリングを受けていなくても
この「条件」を自分で分かっている人はよくなっている傾向があると感じています。

カウンセリングには「お化け屋敷の法則」といいうのがあります。
お化け屋敷の怖さは、そこにお化けがどこにいるかが分からないことにありますよね。
どこに隠れているかが分かれば、怖さは半減します。
場合によっては、事前に対処する(紙に書いて見せる、メールで送っておくなど)
ことが出来る可能性が増えます。



吃音も、自分の条件を正しく把握すれば怖さは少なくなります。

別の方法としては、プラスのアンカリングを作る方法があります。
流暢に話せた時をイメージして、それと五感をむずびつけて、苦手な場面の時に
その五感を味わうという方法です。
ただ、これは緊張の緩和にはなりますが、吃音自体の軽減には難しいようです。
吃音自体の軽減は、やはり吃音をマインドフルネスによって観察するのが
最善の方法だと思います。

話は変わりますが、最近話題になっているカルト宗教のマインドコントロールは
このアンカリングを使っているようです。
何かをすれば、恐怖心が沸き起こってくるようにプログラムしてあるようですね。
だから、到底素人には無理で専門家が対処しないといけないそうです。

ちなみに、今ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)という、マインドフルネスを
組み込んだ第三世代の認知行動療法を勉強していますが、私が行っているカウンセリングと共通点があって興味深いです。
これらは「あるがままを自覚する」ことを目指しますが、ACTや森田療法などに沢山のヒントがあると思います。
難しい道のりではありますが、吃音改善に有効は方法はいくつかあり、そのエッセンスを取り出すことが出来れば、より多くの吃音者の為になるのではないかと考えています。

話が大分それてしまいましたが、ただ電話が苦手で終わらせるのではなく、
その心理的なメカニズムを知ることは、吃音の悩みから解き放たれる大きな助けとなると思います。

それでは、また!


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